小児科医として32年、地元岡山県の家庭医として16年、地域密着ドクター【横山 俊之先生】へ、子供のかぜについてインタビューしました。
そもそも「かぜ」とは何?
子供はよくかぜをひきますが、どのような原因があるのでしょうか?
せき・鼻水・嘔吐・下痢・発熱などの症状を示す一群の病気を「かぜ症候群」、いわゆる「風邪(かぜ)」と言います。
「かぜ症候群」の原因は、大部分がウィルスですが、最も頻度の高いウィルスだけでも200種類以上存在しています。
起因となるウィルスの種類はたくさんありますが、その症状は、せき・鼻水・嘔吐・下痢・発熱など、ほとんど同じため、まとめて「かぜ症候群」と呼びます。
子供がかぜを引いた場合、どのような診察をするのでしょうか?
まず、かぜをひく事自体は悪いことではありません。むしろ、小さいうちにたくさんかぜをひいて、免疫を付けた方が良いです。
医師の対応としては、かぜの症状が強く現れている病態を明らかにし、その原因を取り除き、症状を和らげることです。
溶連菌感染症、プール熱、インフルエンザなど、周囲に感染しやすい疾患や、合併症を伴う恐れのある疾患以外では、「かぜ症候群」の病原体は特定しません。また、対症療法で症状だけを抑えることもしません。
かぜは「かぜ薬」では治せません。日常生活や生活習慣の改善が最も重要になります。
かぜをこじらせずに、日常生活を継続できるようにすること、つまり、かぜを軽く経過させる方法を診察の中で説明します。
かぜの治療方法
とはいえ、子供の急な発熱や嘔吐は親としては焦りますよね。
大前提として、かぜの症状は、病原体の侵入を防いだり、侵入した病原体を追い出すために重要な生体防御反応だということです。
- 咳・鼻水:病原体を気道から追い出す反応 (非特異免疫※1)
- 嘔吐・下痢:病原体を消化管から追い出す反応 (非特異免疫※1)
- 発熱:病原体の増殖を抑え、「特異免疫※2誘導」を促進する反応 (非特異免疫※1)
まず、咳・鼻水・嘔吐・下痢で病原体の侵入を防ぎ、侵入した病原体は追い出し、発熱により病原体の増殖を抑えます。(非特異免疫※1)
続いて、病原体や病原体に感染した細胞を処理して(特異免疫※2)、感染症を終結させています。
そのため、いわゆる「かぜ薬」を服用すると、余計にかぜを拗らせてしまいます。
かぜをひいた場合、暖め過ぎず、こまめに水分をとり、安静にすることで、免疫により自然に治癒します。
画像:Happy-Note 2013年春号
私は、かぜの患者さんの場合、症状を和らげる薬は出しますが、止めるような量の薬は出しません。
解熱剤を処方する場合も、平熱にすることは目的とはせず、発熱に耐えて、眠れたり、飲み物が摂れる程度の体温にする目的で使用します。通常量の半分量から使用し、0.5〜1℃下げると充分に楽になります。
吐き止めは、胃液で未処理の感染力の強い病原体を小腸に突き落としてしまいます。もし便秘状態であれば、腸に大きな負担になり、病原体の腸粘膜への感染機会を増やして自己犠牲を増やしてしまいます。
「下痢」で注意すべきは、「便秘」なのに「漏れ出している流動性の高いガスや消化液」を下痢と勘違いされているケースが多いことです。
特に、発熱と嘔吐が一緒にある場合、実態は便秘の場合が多く、腸内に残留した硬いうんちの周りを消化液がすり抜けて排出されるのが、下痢に見えるのです。そのため、「下痢止め」は意味をなしません。
患者さんのお腹を触診し、便秘の有無を確認し、便秘であれば、病態を説明して、排便を促します。
かぜの予防方法
子供のかぜを軽症化させるために普段から気をつけることはありますか?
「鼻副鼻腔炎の予防」と「便秘の予防」、すなわち「気道の加温加湿」、具体的には「湯気の吸入」です。
また、生活習慣の面からは、「早寝・快眠・早起き・快食・快便の流れ」が大切です。
便秘とは、うんちが出ているかどうかではなくて、「うんちが出きらない状態」です。
身体が安眠快眠している夜間は、副交感神経の働きで、腸の蠕動運動が活発になり、便を、翌朝、排泄する準備段階として重要になります。
腸内を移動したうんちは、直腸や肛門管内に運ばれます。早起きし、適度の運動の後、朝食を摂取すると、「胃結腸反射」が起こり、直腸肛門管内のうんちが排泄されます。
ところが、「鼻副鼻腔炎」で、鼻が詰まっている場合、無意識に鼻をすすってしまい、鼻から喉の方へ流れていきます。これを「後鼻漏」といいますが、勢い良くすすると、気管にも入ってしまい、痰が絡んだような咳が出ます。
この現象は、特に夜間多く起こるため、腹満による呼吸抑制と共に、不眠の原因にもなります。
鼻詰まりに効果があるのが、温かい湿気のある空気を鼻からも口からも吸うことになります(気道の加温加湿)。
濡れタオルをレンジで温めた蒸しタオルで、暖かい湿気のある空気を吸わせながら眠らせてください。
これは結果的に「鼻副鼻腔炎」の予防につながりますし、快眠、しいては便秘予防にもなり、かぜの軽症化が可能になります。
画像:Happy-Note 2013年春号
編集後記
今回、インタビューに伺い、小児のかぜの原因など、幅広くお話を聞くことができました。
横山先生は、予診や問診から病態を推定し、実際の子供の診察で確認しているとのことでした。
患者さんの多くは「かぜ症候群」ですが、その中にも重篤な病気が潜んでいないかきちんと診察し、かぜであれば、少なくとも翌朝まで、安心して家庭看護できる状態にすることを心がけているそうです。
また、子供の場合は急に症状が変わることも多いため、看護師による電話でのフォローアップもしているとのことでした。
30年以上小児科医として子供を診てきて、親も子供も初めてづくしの初診の時が特にやりがいを感じるそうです。
親は初めてで不安なことも沢山ありますが、身近に信頼できる先生がいることで、家庭看護について、正しい知識を得て実施できれば、より安心できるようになりますよね。
操南ファミリークリニック
702-8005
岡山県岡山市中区江崎104-16
横山 俊之 先生
※1 非特異免疫とは:「鼻水・咳・嘔吐・下痢・発熱」は、如何なる病原体であろうと、関係なく、侵入を防いだり、体外に追い出すために出現する免疫
※2 特異免疫とは:貪食細胞(抗原提示細胞)が病原体を特定すると、別の細胞(ヘルパーT細胞)を介して、液性免疫(特異抗体)と細胞性免疫(細胞障害性T細胞)を誘導する。、特異抗体は病原体を処理し、抗体で処理できない病原体感染細胞は、細胞障害性T細胞が細胞ごと処理する。
※特異免疫は自己犠牲を伴います。病原体に感染する細胞は出来るだけ最小限にしなければなりませんが、特異免疫の誘導は、ゼロから免疫を作る作業ですから、実際の効果が発揮されるまでに、時間がかかります。
もし、特異免疫が成立するまで何もしないと、病原体は増え放題、感染細胞も異常に増加します。
特異免疫が誘導されても、病原体や病原体感染細胞の処理に手間取り、甚大な自己犠牲を強いられます。「病気は治って、人も亡くなる」結果になりかねません。そこで、特異免疫成立まで、出来るだけ病原体の侵入を阻止して、侵入した病原体は体外に追い出す「時間稼ぎ」を担うのが「非特異免疫」、すなわち、「かぜ症状」です。