6割の医師が「運転を禁止する」 認知症患者の運転について医師2600人にアンケート調査

高齢者の交通事故が増えている
6割以上の医師が、認知症の方の運転について「制限(禁止)すべきである」と考えていることが分かりました。ただし車がなければ生活が立ち行かなくなるケースの存在も考えられ、社会全体での仕組みづくりが求められています。
医療の現場
イシコメ運営事務局 イシコメ運営事務局

最近、高齢者ドライバーによる交通事故が多くないですか?

その度に「また認知症か?」などとネットで話題になります。
実際、事故後の検査で認知症であることが判明するケースも増えており、先日(2017年3月12日)施行された改正道路交通法では75歳以上の方の免許更新時におこなわれる認知機能検査の仕組みが厳しくなるなど、複数の点で認知症対策が強化されました。
最終的に認知症であると診断された場合、免許停止や取り消しになるとされています。

改正道路交通法の施行を受け、日本神経学会・日本神経治療学会・日本認知症学会・日本老年医学会は連名で、3月14日に提言を発表しました。
その中で、下記の2点を中心とした対策の検討を要請しています。

・運転中止後の生活の質の保証と運転免許証の自主返納促進
運転中止後に認知症の人やその家族が社会から孤立しないための、公共交通システムの再整備や自動運転等の代替交通支援システムの開発、それらの利用者負担の軽減なくして、法の実効性は上がらないと思われます。生活の質を保証した上で、社会の安全が重要であることを丁寧に説明し、可能な限り強制的な手段ではなく、運転免許証の自主返納を促進する必要があります。省庁横断的な対策の構築には、私たちも全面的に協力したいと考えます。

・運転能力の適正な判断基準の構築
認知症の進行に伴い運転リスク、事故が増加することは自明であり、科学的エビデンスも蓄積されています。一方で、ごく初期の認知症の人、認知症の前駆状態が高率に含まれている軽度認知障害の人、一般高齢者の間で、運転行動の違いは必ずしも明らかでありません。特に初期の認知症の人の運転免許証取り消しに当たっては、運転不適格者かどうかの判断は、医学的な「認知症の診断」に基づくのではなく、実際の運転技能を実車テスト等により運転の専門家が判断する必要があります。今後、軽度認知障害の人、初期の認知症の人の運転能力については、さらなる研究を進めて行く必要があると思われます。

引用元:提言|日本認知症学会

わたしは地方の出身ですが、やはり地方に行くほど車社会で、車がなければ通常の生活もままならない状況が散見されます。
運転はQOLにも直結しますので、認知機能検査や制度の運用には一層の正確さが求められます。

一般の医師は、認知症患者の運転についてどのように考えているのでしょうか。

少し古いデータですが、2012年にメドピアの医師会員向けに「認知症患者の運転について」のアンケート調査を行いました。
今回は、約2600名の医師が回答したその調査結果をご紹介したいと思います。

※ 本調査は医師専用コミュニティサイト「MedPeer(https://medpeer.jp/)」にて2012年4月27日から同年5月3日にかけて行われ、3196名から回答をいただきました。

6割強の医師が「運転の禁止」「程度によって禁止」

この調査では、全診療科の医師に対し「認知症患者さんの運転について日々どのように対応しているか」と質問し、

1. 運転を禁止する
2. 認知症のランクに応じて禁止する
3. 説明のみ行う
4. 特に対応はしていない
5. その他

これらの中から、最も近いものを選んでいただく形式で行われました。
その結果をまとめたものが下記の図1です。

図1 認知症患者の運転に関する対応

「運転を禁止する」「認知症のランクに応じて禁止する」が合計して64%となり、6割強の医師が(程度に応じて)運転を禁止していることが分かりました。

また、下記は特に認知症患者を診察することの多い、精神科・老年内科・神経内科を標榜する医師に絞った結果をまとめたものです。

図2 精神科・老年内科・神経内科の回答

認知症患者の治療にあたることの多いこれらの診療科に絞ってみると、運転を制限するという医師の割合が増加することがわかります。

以前より日本医師会が中心となって認知症の診断や治療ができる医師を増やすための活動をしております。
ですので、この調査をした2012年と比較して、今では医師全体でも運転の制限が必要とする医師の割合は増えているかもしれませんね。

「禁止しても言うことを聞いてくれない」

「運転を禁止する」と回答した医師のコメントを見てみると、禁止はするものの、実際にはなかなか言うことを聞いてもらうことが出来ない現実あるようです。

  • 50代男性 一般内科医
    高齢の父が軽い認知症ですが、車を運転すると言って聞きません。大きな事故を起こしてからでは遅いと、黙って車を売却してしまいました。ところが自分で新車の購入の手続きをディーラーに行って決めてきたのです。売るディーラーの担当者も86歳の高齢者が一人で購入するということに違和感を持たないのが不思議です。今は、仕方がないので納車したまま父の目に触れないよう近所の駐車場にシートをかけて置いています。父にはまだ納車していないと騙していますが、そのうちばれるでしょうね。
  • 50代男性 一般内科医
    明らかな認知症であれば強く運転を禁止するのが主治医としての順当な判断だと思います。程度によっては運転シュミレーターみたいなものを用いた判定が必要だと考えますが、存在するのでしょうか。医師の責務というより、自動車業界、国土交通省、警察、保険業界などが知恵を出し合い、全社会的な検討や取り組みが要求されるところかと思います。
  • 50代男性 形成外科医
    昨今は、てんかん等の持病がある方の交通事故が問題になっていますが、病気を自覚せず、不便だからと言って運転する高齢運転手の方が大問題だと思います。認知症は失見当識もあり、加齢による視野の狭窄、判断の低下、反射速度の低下があるため、もっと積極的に規制すべきです。主治医が患者さんの認知症を認めていた場合、カルテに運転の禁止等の記載がなければ訴えられても仕方ないでしょう。

「対応していないというより、できない」

「特に対応していない」と回答した医師のコメントからも、「対応していないというより、現実的に対応できない」とする医師が多くいました。

  • 80代男性 老年内科医
    特に対応はしていないというより対応は困難と考えます。まず高齢者では認知症の方があまりにも多いです。程度も様々ですし、本人が運転されているかどうかをすべての方に問うことは極めて困難です。さらに認知症の程度を知ることも容易ではありません。認知症に対する知識は一般の方にもかなり広まっていますから、家族の方が判断されることが適切でしょう。ある程度の認知症の方が運転を続けておられるのを知った時には、やはり本人なり家族に警告くらいはすべきと考えております。
  • 50代男性 一般内科医
    そもそも、認知症であると診断できるギリギリのラインなど、程度によっては運転が可能か判断することが出来ないのではないでしょうか。仮に判断できても、法的強制力を持たせないことには、高齢孤立化している人達に運転を止めさせることは難しいでしょう。またそうした場合の、社会的援助も考えてあげなくてはなりません。
  • 50代男性 老年内科医
    大変難しい問題です。特に地方では車がないと実際買い物にも行けないところも多いです。しかし多くの車がオートマになって以降、認知症を含め、高齢者によるアクセル踏み間違え事故が多発しています。やはり社会全体を考えると、個人の権利は制限されてしかるべきでしょうね。

今回の改正道路交通法は必要に迫られてのもの?

医師のコメントを見てみると、今回の道路交通法の改正に近いことを指摘する医師が複数いて、「必要に迫られてのものだったのだなぁ」という気がしてきます

  • 50代男性 神経内科医
    一応、主治医としては車の運転を禁止しています。しかしやめてくれませんし、家族が言っても聞きませんし、どうしようもない状態です。個人的には、高齢者の免許更新に際しては、公安委員会主導で認知機能評価や運転技能評価を行うべきだと思います。家族と本人には「介護保険の審査会によるけれど、多くの審査会では、車を運転している人は、原則、要介護認定では、非該当がでている」と言って、なんとか運転免許証を返納させようとしていますが、今一つ効果ありません。
  • 50代男性 精神科医
    精神科医です。認知症の方の運転についてよくご相談を受けますが、当然のことながら「運転禁止」と話します。家族にも同様に説明しますが「かわいそうだから」ということで免許更新させるケースが後を絶ちません。免許センターで簡単なテスト(長谷川式など)を65歳以上の方全員にしてみてはいかがでしょうか? または、病院の診断書が必要とか、何かの歯止めを行政が施すべきです。
  • 50代男性 一般内科医
    日本の法律の曖昧なところだと思います。責任は本来、免許証を交付する国にあるべきだと思いますが、(本人や家族に)丸投げが現状だと思います。しかし、今後の高齢化社会において問題化するはずですので、はっきりと、国が指針を出すべきです。

繰り返しになりますが、この調査は2012年に取ったものです。
5年も前から、すでにこれだけ認知症と運転について問題視されていたということですね。

社会全体で取り組んでいかなければいけない問題

わたしの父は肺がんで亡くなる前、極端に物忘れが激しくなるなど、かなり認知機能に問題が出ている時期がありました。
その頃に父が運転する車に乗っていて、普通に信号無視をしてしまい、死ぬかと思ったことがあります。

父はタクシー運転手の経験もあり、かなり運転には自信を持っていたので、本人は非常にショックを受けていたことを覚えています。

それを機に運転免許の返納を勧めて、本人も納得して返納するに至りました。

ですが、地方では車がないと日常生活をまともに送ることすら難しくなります。
父に関しても、母や姉が免許を持ってなければ免許の返納は難しかったかもしれません。
それだけに、医師に「運転するな」と言われても、なかなかめることができない人が多いのは理解できます。

冒頭で紹介した提言にもあります通り、公共交通機関や訪問介護等、運転中止後の生活を支えるための、社会全体の仕組みをこれから整えていかなければなりません。

医師のコメント

  • 石見 陽
    これは非常に大きな問題で、一番重要なのは「認知症診断というのはクリアカットではない」ということ。症状の進行が緩徐であり、どの時点をもって認知症と診断するのか?専門医でも判断が難しい場合があると聞きます。 今回の改正により、疑いのある人は医師の診断が必要ということですので、診断を求める高齢者が急増することになります。 当然、各種検査をした上での診断になると思いますが、仮にある人を認知症と診断した場合は、その人の移動手段を奪うことになり、逆にその人の認知症を見逃す、もしくはかわいそうだから、という理由で診断を遅らせたりしてその人が事故を起こした場合、責任を医師に問われる可能性があります。
    投稿日時:
ツイート
この記事の著者

関連する記事